NO.8 愚著が、書店を滅ぼす!?
本というプロダクトは、みな一緒だ。カバーや帯があり、タイトルがつけられ、200ページ前後の本文があり、文字が並ぶ。装丁や本文デザインの良しあしは別として、読者からすれば、みな書籍である。
読者にとって、選ぶ基準は、出版社名はまったく関係ない。どこの出版社から出ようが、本は本である。面白ければ買うし、面白くなければ買わない。
棚の前で観察していると、読者は、店頭でピンときたタイトルの本を手に取り、帯を読み、そで(折り返し)を読み、著者略歴を読み、まえがきやもくじ、本文をパラパラめくる。
そして、期待外れかのように、書棚に戻す。「もっと面白い本はないかな~」と言いたげな顔をして、そこから離れていく。
以前、ベストセラー作家の新刊を、ほんとうに「これでもか!」というくらい、エネルギーを注いで、徹底的に作り上げて世に出したことがあった。
カバーデザインを何パターンも作り、本文デザインも凝りに凝り、カバーや本文の紙も何パターンも出し、色校を何回も出させ、入稿を何回もやり(ふつうは1回)、下版ギリギリまで粘った。
毎回、1冊の本を校了すると、片腕が上がらなくなるので、鍼灸院に行くのが常だったし、髪が抜け、歯が欠けることもあった。それくらい、1冊の本に真剣に取り組んだものだ。
だからこそ、店頭に並ぶや否や、初版数万部の本が、1週間で1万部を超える重版がかかった。
その後、送られてくるファンレターには、「著者さんも編集者さんも、ほんとうに丁寧に作りこんでいただき、とても感謝しています」という、メッセージであふれていた。
「ああ、ちゃんと精魂込めて作れば、読者の人は感じてくれるんだ!!!」と心の底から喜んだ。
「読者をなめて、手抜きしたらいけない」。そのとき、肝に銘じたものだった。
話しを戻そう。
内容の薄い、粗製乱造された本ばかり増えたら、そのコーナーから読者は遠ざかっていってしまうかもしれない。
結果がすべての世界だから、そんな状態が続くと、編集者は「このテーマの本は売れない」というレッテルを貼り、そのテーマの新企画に興味をなくしてしまう危険性もあるだろう。
というか、営業がそのテーマは売れないから、別のテーマで売れる著者の企画を出してほしいと編集者に突きつける、かもしれない。
もし、このテーマで、有能な新人がいても、「このテーマじゃ、企画が通らないんですよ~」と、編集者から門前払いとなる可能性が高い。
せっかくの才能も発掘されず、日の目を見ないことになるかもしれない。
「まだ著者になってはいけない本が溢れかえることで、書店の魅力を殺し、客足が遠退き、はては書店を滅ぼす!」
これはあながち、的外れの仮説ではないのかもしれない!!!