2018年3月30日金曜日


NO.8   愚著が、書店を滅ぼす!?

本というプロダクトは、みな一緒だ。カバーや帯があり、タイトルがつけられ、200ページ前後の本文があり、文字が並ぶ。装丁や本文デザインの良しあしは別として、読者からすれば、みな書籍である。

読者にとって、選ぶ基準は、出版社名はまったく関係ない。どこの出版社から出ようが、本は本である。面白ければ買うし、面白くなければ買わない。
棚の前で観察していると、読者は、店頭でピンときたタイトルの本を手に取り、帯を読み、そで(折り返し)を読み、著者略歴を読み、まえがきやもくじ、本文をパラパラめくる。
そして、期待外れかのように、書棚に戻す。「もっと面白い本はないかな~」と言いたげな顔をして、そこから離れていく。

以前、ベストセラー作家の新刊を、ほんとうに「これでもか!」というくらい、エネルギーを注いで、徹底的に作り上げて世に出したことがあった。
カバーデザインを何パターンも作り、本文デザインも凝りに凝り、カバーや本文の紙も何パターンも出し、色校を何回も出させ、入稿を何回もやり(ふつうは1回)、下版ギリギリまで粘った。
毎回、1冊の本を校了すると、片腕が上がらなくなるので、鍼灸院に行くのが常だったし、髪が抜け、歯が欠けることもあった。それくらい、1冊の本に真剣に取り組んだものだ。
だからこそ、店頭に並ぶや否や、初版数万部の本が、1週間で1万部を超える重版がかかった。

その後、送られてくるファンレターには、「著者さんも編集者さんも、ほんとうに丁寧に作りこんでいただき、とても感謝しています」という、メッセージであふれていた。
「ああ、ちゃんと精魂込めて作れば、読者の人は感じてくれるんだ!!!」と心の底から喜んだ。
「読者をなめて、手抜きしたらいけない」。そのとき、肝に銘じたものだった。

話しを戻そう。
内容の薄い、粗製乱造された本ばかり増えたら、そのコーナーから読者は遠ざかっていってしまうかもしれない。
結果がすべての世界だから、そんな状態が続くと、編集者は「このテーマの本は売れない」というレッテルを貼り、そのテーマの新企画に興味をなくしてしまう危険性もあるだろう。
というか、営業がそのテーマは売れないから、別のテーマで売れる著者の企画を出してほしいと編集者に突きつける、かもしれない。

もし、このテーマで、有能な新人がいても、「このテーマじゃ、企画が通らないんですよ~」と、編集者から門前払いとなる可能性が高い。
せっかくの才能も発掘されず、日の目を見ないことになるかもしれない。

「まだ著者になってはいけない本が溢れかえることで、書店の魅力を殺し、客足が遠退き、はては書店を滅ぼす!」
これはあながち、的外れの仮説ではないのかもしれない!!! 

2018年3月28日水曜日


NO.7 あなたの書きたいものは、本じゃない!

以前、「書店のコーナーが、霞がかかったようなぼんやりとした空間になっている」と書いた。
「売れるコンテンツを失った書店の棚は、読者が興味を失い、離れていく魅力ない棚になってしまう危険性を孕んでいる!」と提言した。

次のことは、私が考えるひとつの「仮説」として読んでほしい。
昨今、多くの新人が出版できるようになった。
そのことに関しては、喜ばしいことだが、ほんとうは「まだ出版をしてはいけない、出版する実力がない人が著者になってしまっている」ことが、上記の現象を招いているひとつの原因になってはいないだろうか?

出版するためには、版元により、さまざまな条件がある。
大手出版社ほどハードルは高いが、小さな出版社は、ある一定の条件をクリアーすれば、よほどダメな企画は別として、初版部数は少なくても出版できてしまう。
自費出版とは違うので、店頭にも並ぶし、売れれば重版もかかる、印税も出る。本をプロデュースする立場からすれば、ありがたいことだが、そこには目に見えない落とし穴が潜んでいるようにも感じられる。

本は、何のために存在しているのだろう。
私は、出版塾や出版セミナーで、冒頭にいつもこの話をしている。
あなたの書きたいものを本にしてはいけません
読者が読みたいもの、必要としていることを、あなたの豊富な体験から丁寧に説明することです。それが、本です」

本は、「読者の心に寄り添うものでなければいけない」と、私は考えている。
書きたいものを本にするのは、傲慢だと感じる。
以前、若きベストセラー作家が、「私は自分が書きたいものを書いているんじゃない。読者が読みたいものを、本を通じて表現している」と話してくれたことがあった。
こうした姿勢だからこそ、多くの読者の心をつかめるんだなあと感心したものだ。
前述した、「出版する実力がない人」は、こうした本を書く姿勢も含まれると思っている。

・自分の仕事のブランディングのため。
・セミナー集客のツール。
・効果的な宣伝ツール。
・有名になりたい。
・名刺代わり。

挙句の果て、「そろそろ、でも
そんな声を聞くたびに、胸が痛くなる。
「名刺代わりなら、印刷代ほしいよね」と言った、ある編集長に同感だ。

あなたは、何のために本を出したいのですか?
もう一度、あなたの胸に問いかけてほしい。


2018年3月26日月曜日


NO.6 売れるかどうかを判断する「編集者的視点」


出版社は、初版ではほぼ赤字である。重版がかかって、はじめて「出版してよかった!」という儲けが生じる。
そういう事情があるため、編集者はさらに今度は「編集者的視点」で、この出版企画書を眺めるのだ。
「そういうポテンシャルを、この新人は持っているか!?」 
出版企画書を見た数秒間で、編集者の長年の勘を働かせる!
勘と言っても、それは経験を通じて手に入れた「モノサシ」で計るだけだ。

《遠藤励起のモノサシ》

出版企画書にメリハリがあり、読んでみたいという表現になっている。
タイトルが具体的で、わくわくする魅力がある。
新人だけど、すごい実績と経験、多彩なネットワークを持っている。
肩書も含め、オリジナルのキャッチフレーズを持っている。
実績に伴ったテーマの企画になっている。自信にあふれている。
企画の切り口が類書に比べて斬新だ。類書にはない視点が盛り込まれている。
売れるマーケットを押さえている。今の時代に求められているテーマである。
読者のコアターゲットが明確。
発売前の仕込みや、発売直後の仕掛けも期待できる。
この著者は何冊も書けそう(※ここは、見逃されそうだが、大事なポイント)。
構成案(もくじ)が、わかりやすく、躍動感がある。
サンプル原稿が、うまい! 原稿に説得力がある。
執筆時間が早そう。
人物に好感が持てる(写真、経歴、生き方)。
そして、

理由はわからないが、著者の持つ「不思議なエネルギー」を感じる!(ほんとうは、これが一番大事!)。

等々、これまでの経験から、相手を判断する「著者になる人は、絶対これを持っているモノサシ」で無意識に計りだす。
その結果が、平均12%の採用率となってしまう。
そのくらい、まずは大手の出版社での出版とは「ハードルが高い」と考えてほしい。

編集者は、年間、月間のノルマがある(まあ、どんな企業でも同じだが)。ノルマをこなさないと、上長に叱られる。評価も下がり、ボーナスにも影響する(笑)。
だからこそ、大手の出版社のふつうの編集者は、どうしても「売れている著者」に走る
一度売れると、シリーズ化を模索し、ノルマの土台を作ろうと必死になる。安定した売り上げが望めるからだ。
さらに、売れている作家をさまざまな伝手から探していく。

私だって、基本70%(安全)、売れている人20%(保障)、新人10%(挑戦)という割合で編集作業をしていたものだ。
ただ、ふつうの編集者は、売れている人90%になる。失敗を恐れ、新人にまったく興味を示さなくなる。そんな余裕がないからだ。
だから、有能な新人が世に出にくいのである(有能な新人が世に出にくいのには、また別の理由があるので、その話はまた別項でお話ししたい。ヒントは、出版企画書にある)。

2018年3月20日火曜日


NO.5  持ち込み企画の成約率は1%!?


昨今、出版プロデューサーやコーディネーターなどが増え、出版セミナーや出版塾が数多く開催されている。
作家デビューしたい方は、そこでのノウハウを学び、出版企画書を作成し、出版社の編集者に持ち込む。
編集者のテリトリーだけでは企画を探すことに限界があるので、このシステムは、編集者にとってもありがたいものである。
私も、学研時代は、少なからずお世話になったものだ。
ただ、その企画が通る確率は、ものすごく小さい! 私の場合、極端な話、1%の採用率だった。100件に1件しか企画が通らないのが現実である。

それはなぜか。出版社は企画を決定する際、初版部数、全体のページ数、本体価格、編集費、製作費、人件費、印税などを仮設定し、合算して、原価計算をするのだ。
その段階で、赤字になるような企画は、絶対採用しない。
新人作家の場合、最低初版部数を決め(この部数以下で出版したら赤字になるという部数。大手出版社ほど部数が多い)、本体価格を仮設定し、その設定で出版できるレベルの企画内容になっているかを真剣に検討する。

その条件として、全国の大手主要書店で平積みや面陳ができるか? 類書の近著(1年以内)は売れているか? 紀伊国屋書店や日販等のデータベースで検証する)初動に期待できるか? 発売前の予約注文は取れるか? 返品は抑えられるか? 1週間から10日くらいで重版がかけられるか? 等の「営業的視点」が最低限必要になってくるのだ。この視点が中途半端だと、企画は絶対通らない!!!


◎敗者復活戦は絶対ない!
というのも、再三申し上げているように、編集部(編集長)の決定だけで、企画は決まらないからである。
最終営業会議(社長や役員が出席するのがふつう)があり、「企画立案書」を提出、プレゼンを行う。敵は社長、営業役員、営業部長、営業課長、営業部員、味方は編集部長、編集課長、編集長などが出席し、バトルが始まる。そこで、社長や営業に「いまいちですね~」と言われたら、もうどうしようもないのだ!!!
敗者復活戦は、絶対ない! ただ、一回のチャンスが、新人には与えられるのみ。

だから、営業が「売れるかも?」と、錯覚でもいいから思わせるだけの情報を集めることが、編集者にとって必須なのだ。
このことは、出版社の編集者を長年経験した者でないと、絶対わからない感覚である(それも、編集長か副編集長クラス)。
なので、出版プロデューサーとして、出版塾やセミナーでは、出版企画書作成において、この要素の重要性を口を酸っぱくして伝えているのである。

となると、初版6,000部(一般的な部数、最近はもっと下がっている場合が多い)で出せる企画は、12%というのが現実なのである(編集者は、最終段階の営業とのバトルで、営業からOKという言葉を引き出すために、さまざまな重要な要素を瞬時に計算しているから、企画内容だけで判断することはない。
だから、「いい企画なんだけど、うちでは無理だなあ」という理由でお断りすることもあるのである、新人の皆さん。そんな場合は、他社の親しい編集者に紹介することも多い)。


2018年3月11日日曜日

NO.4    書店の棚が、霞がかかったように見える!


書店に行くと、最近は、「何かが違う!!!」と感じる。 
その「何かが明確にわからない!」から、出版プロデューサーとして困惑する。

数年前までは、売れる本とそこそこ売れる本、その他が区別できていた。
売れる本は、間違いなく光っていた!
パワーが違っていた!
タイトルもテーマも訴求する読者も明確だった!
一般書に限って言えば、売れる本は、間違いなく頭が二つも三つも抜きんでていた。売れるのが当たり前という雰囲気を漂わせていたものだ。

でも、例えば昨今の女性エッセイ・コーナーを見ても、みんな同じ顔をして、同じようなインパクトのないタイトルで、なんでこれがここに並んでいるのかわからないような本ばかりが溢れかえっている!

ある出版社の女性編集長の言葉だ。
最近の書店の棚を見ていると、点数がものすごく多く、でも個性がなくて、平均化していて、そこにいるだけで、なんだか気持ちが悪くなってくる」
「気持ちが悪くなってくる」。言い得て妙である。
そんな現場の声が、ちらほら聞こえてくるようになった。私だけの感想ではないのだ。

コーナーが、霞がかかったようなぼんやりとした空間になっている。
その結果、そんなに売れていないのが現状である。それが続くと、読者が興味を失い、離れていく魅力ない棚になってしまう危険性を孕んでいるのではないだろうか。


2018年3月9日金曜日


NO.3   出版プロデューサーの資質が問われる瞬間


実際、書店に行き、現場を見ていると、その圧倒的な物量に、プロの編集者の自分ですらちょっと怯んでしまう。
ここにどんな新しい著者の本が投入できるのか!? 

どんな著者?
どんなテーマ?
どんなジャンル?
誰に向けて?
判型は?
構成は?
どんなタイトルだったら、目立つのか、手に取ってもらえるのか、買いたいと思わせるような本ができるのか、重版がかかり、ベストセラーになるのか?

ベストセラーになるためには、ジャンルのコーナーで10冊くらいの平積みは最低限必要。さらに、棚に面陳があり、理想は総合新刊コーナーで置かれていたり、多面展開されていること。
そして、1週間でジャンル別ベスト5以内にランクインすることも必要だろう。

新人作家は、そのくらいの結果を引き寄せる「エネルギー」が企画書に込められていなければ、「一流出版社」(ここがポイント。笑)で企画は通らないような気がする。
昨今の書店の陳列している状態を見て、心底感じる。

迷う、惑う。出版プロデューサーの資質が問われる瞬間でもある。
そんな著者を発掘して、世に送り出せるのだろうか???

2018年3月8日木曜日


NO.2   まずは、書店に行ってごらんよ!


でも、そこに、並びたいんでしょ? 
とにかく、書店に足を運んで、自分の興味のある、出版したいコーナーに行って、平積み、面陳している本の数々を手にしてごらんよ。
とくに、POP(カードサイズの紙)がついている本はねらい目だ。

手に取って、タイトル、著者名、著者略歴(既刊本のタイトルや数なども。カバーの後ろの折り込みにある場合が多い。あと奥付の上など)、出版社名、帯に書いてある著書累計部数、推薦者の名前、奥付の日付、重版回数、などを実際に確認してごらん。

あなたは、その著者たちの隣に並ぶ自信がある? 
この著者たちのジャンルに切り込んでいくだけの実績はある? 
そこで勝負ができるだけのコンテンツはある? 
そのコンテンツを魅力的に表現する執筆力はある? 
そこのジャンルで書き続けられるだけの覚悟がある? 
あなたの企画に、編集者がお金をかけても出したいという魅力はある?(客観的に)
そこで、絶対著者になってやるという情熱はある? 
読者が「1,500円を出しても買いたい! 読みたい!」と〈衝動買い〉させるだけのパワーを持ってる?

それを、もう一度、あなたの胸に問いかけてみたらいい。
そこで去来する感情が、今のあなたの本心なんだから。
恐れや不安などのマイナスの感情が少しでも湧き上がるようなら、今! 作家デビューは諦めたほうがいい。


NO.1   新刊は2週間が命


ビジネス書、自己啓発書、女性エッセイ、健康書、美容書、ダイエット、子育て、精神世界、占い、皆さんが書きたいジャンルはこんなところでしょ。
そこは、ライバルがしのぎを削る世界。読者の目に止まる平積み、面陳はほんのわずか。全体の2割というところか。

ちょっと売れている著者だって、既刊本は、目立たない棚差しが当たり前。だから、なかなか重版が続かないのだ。
新刊しか平積みにならない世界(出版社の営業力で変わる世界、編集者が立ち入ることが本当に難しい世界)
それも、売れなければ、3日で棚差し、1週間で店頭から消え、返品なんてざら!!! 
下手をすると、そのまま消えて絶版に!!!(その前に、書棚に並ばないなんてこともある(笑、いや笑えない))

新刊は、1週間から2週間、そして、もって1カ月の命。
ここで実売(重版が可能な数字、書籍ごとに一定の実売部数が設定される)が取れないと、営業は、「売れない本」というレッテルを無慈悲に貼る。
そして、極端に営業に消極的になる。これが現実。

編集者が「何とかしてくれ~!!!」と頼み込んでも、無反応になる。これが、編集者が営業を「敵!」とみなす瞬間なのだ。
そして、以下のことを無表情で求められる(そんなことわかっているし、ずっとやっている!!! 発売前から、編集者として)。

発売後、SNSで口コミをしてくれたり、書評で取り上げられたり、マスコミで紹介されたり、何かの形であなたの本が露出しない限り、何カ月もかけて執筆し、編集してきた血と汗の結晶も、自分の愛する子どもも、あっという間に日の目を見なくなるのである!!!